原作ファンを裏切らないキャスト・スタッフ陣の魅力を解説
“解釈一致すぎる”鬼太郎父と水木コンビに胸が熱くなる、舞台『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』開幕
2026.01.13 19:00
2026.01.13 19:00
2026年1月9日、東京・サンシャイン劇場にて舞台『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』が開幕。漫画家・水木しげる生誕100周年記念作品として2023年に劇場公開され、人気を博した同名アニメ映画の舞台化だ。初日に先駆け同日、公開ゲネプロと記者会見が行われた。
映画は“鬼太郎の誕生”の秘密について、かつての目玉おやじと水木との出会い、そして2人が立ち向かう運命を描いたものであり、『ゲゲゲの鬼太郎』アニメシリーズ6期の世界観の前日譚となっている。昭和31年、日本の政財界を裏で牛耳る龍賀一族によって支配されていた哭倉村。帝国血液銀行に勤める水木(村井良大)は当主・時貞の死の知らせを聞き、弔いを建前に野心と密命を帯びて哭倉村へと向かう。一方、幽霊族である鬼太郎の父(鈴木拡樹)は失踪した妻を探すために村へと足を踏み入れていた。

尋常ではない雰囲気の龍賀一族に驚く水木だが、一族の娘・沙代(岡本姫奈/乃木坂46)とは親交を深めていく。ところが、当主の弔いの儀の最中、龍賀一族の一人が惨殺される事件が起こる。皆が騒然とする中、不審者として鬼太郎の父は村人に捕らえられ、水木と出会うことに。名前を名乗らぬ彼を便宜的に“ゲゲ郎”と呼び、なりゆきで2人で行動することになる水木。しかし、村では次々と殺人が起こり、やがて村に秘められた恐ろしい“秘密”が明らかになっていく……。

舞台化が発表されたときの反響の大きさは、近年の2.5次元系の舞台作品の中でもトップクラスだったのではないか。その理由として、『ゲ謎』の通称でSNSなどを席巻した原作映画の大ヒットはもちろんだが、スタッフの布陣とキャスティングがファンの期待を煽るものだったからだ。特にキャスティングに関しては、発表された瞬間に「解釈一致すぎる」の声がここまで相次いだ作品は珍しいように思う。その分、期待のハードルを超えるプレッシャーは制作陣にあったとは思うが、結論から言うとそれを超えるものを確かに見せてくれた。

繰り返すが、キャスティングが秀逸すぎる。かつての鬼太郎の父である「ゲゲ郎」を演じたのは「2.5次元舞台の帝王」鈴木拡樹。『最遊記歌劇伝』や舞台『刀剣乱舞』シリーズをはじめ2.5次元の作品を数多く演じてきた彼だが、2.5次元舞台に必須の“キャラクターを自分の役柄とする憑依力”には定評がある。それでいて本来の彼が持つ柔和で透明感のある雰囲気は、今作の“幽霊族=人ならざるものである”というゲゲ郎の役にぴったりなのだ。舞台上ではアクションシーンもふんだんに見せてくれるが、さすがの動きとスピードに惚れ惚れする。前半など下駄履きでの見事な殺陣を披露しているが、身体能力の高さに改めて驚かされる。
水木を演じた村井良大に関してもまた、観終わったあとにしみじみと「この役が彼で良かった」と実感する観客は多いのではないだろうか。ストレートプレイからミュージカルまで幅広く活躍、今や演劇界になくてはならない俳優の一人である彼だが、動きのキレや歌唱力、主役からバイプレーヤーまでこなす器用さはもちろん、真骨頂は「演技の巧さ」にあるように思う。

そんな彼が演じた水木という役は、戦時中のPTSDとサバイバーズ・ギルトを内面に抱えながら、戦後復興へと向かう日本の中で「のし上がりたい」という野望を持つ人物として描かれている。単なる善人でもなく、悪人でもない……非常に複雑でリアリティのある役であり、この水木の内面の揺れ動きや微妙な変化が物語の重要なファクターとなる。また、原作は水木の視点で進むため、舞台でもストーリーテラー的な役割を持ち、セリフ量も膨大。時代背景が戦後まもなくという設定のために(それが今作では大きな意味を持つ)現代の観客にはときに説明が必要な部分もあるのだが、そういうポイントを確実な台詞回しと安定した存在感で観客にしっかり伝えていく。

映画『ゲ謎』がヒットした要因を紐解くと、『八つ墓村』『犬神家の一族』といったような横溝正史作品テイストを踏襲しているかのような世界観を持ちながら、そこで繰り広げられる物語は旧来の横溝的ミステリーの枠にはとどまらないという“物語の面白さ”がある。それに加えて、この水木とゲゲ郎という、種族を越えた2人の“バディもの”としての造形が秀逸だったことは誰もが認めるところだ。だからこそ、舞台化が決定したときに誰もがこの2人のキャスティングに注目したし、鈴木拡樹と村井良大という2人だと知ったときに歓喜する声が大きかった。それは、この2人の経歴に理由がある。
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