テント公演でしか味わえない醍醐味、体感すべき魅力を解説
安田章大の“特権的肉体”が縦横無尽に跳ね回る!新宿梁山泊『アリババ』『愛の乞食』開幕
2025.06.17 18:30
2025.06.17 18:30
花園神社のテントに、安田章大が立っている。何度も目を疑いそうになるが、これは今、新宿で起こっている紛れもない“事件”だ。それも、とびきりワクワクするタイプの……! SUPER EIGHTの安田章大が東京・新宿の花園神社境内 特設紫テントにて6月14日より上演中の新宿梁山泊『愛の乞食』『アリババ』に出演。それに先がけ13日、公開ゲネプロと囲み取材が行われた。

安田章大と新宿梁山泊の主宰・金守珍、そして唐十郎作品の組み合わせは2023年の『少女都市の呼び声』に続いて2回目となるが、前作がTHEATER MILANO-Zaという立派で大きな“新劇場”だったのに対し、今回はなんと新宿梁山泊のホームグラウンドである“紫テント”! 『愛の乞食』『アリババ』は、両方とも昨年逝去した唐十郎の初期作品であり、休憩を挟んで2作が連続上演されるスタイルとなる。
アングラ芝居ファンも納得の“禍々しさ”
まず上演されるのは『アリババ』。ある町のアパートの一階にひっそりと暮す夫婦、宿六(安田章大)と貧子(本間美彩)。宿六は高速道路を駆け抜けて行ったという黒い馬の事ばかり夢見ている。そこへ一人の老人(柴野航輝)が訪ね、馬を連れて来たと言うが、それは不思議な子供達が曳く赤い馬だった。どんな黒い馬もここに来ると皆、赤くなってしまうという、その町とは……というストーリー。(※貧子役は寺田結美とのダブルキャスト)

これぞ昭和のアングラ! という感触の作品だ。舞台セットは宿六と貧子が住む部屋の中ながら、いつしかそこには彼ら以外の登場人物が入れ代わり立ち代わり現れる。不思議な老人に翻弄されながら徐々にあらわになっていく宿六と貧子の過去や、“赤い馬”と“アリババ”というタイトルが象徴するもの……全体像が掴めそうで掴めない、そんなもどかしい思いを牽引するのは、身体全体で舞台を縦横無尽に跳ね回りながら、淀みなく口跡よくマシンガンのようにセリフを喋る安田章大の存在感だ。何と言っても、“近い”! 花道や桟敷席では汗が客席に飛んでくるのでは? というような近さ。そんな間近で観るアングラ俳優としての安田章大は、記者会見でも金守珍が「唐十郎が言うところの“特権的肉体”の持ち主」と安田のことを絶賛していたが、これがけして誇張でないことがわかる。

唐十郎の戯曲はけして“わかりやすい”ものではない。詩的なモチーフが散りばめられながらイメージが増幅されていくような作品だけに、それを口にする俳優たちにも大きな負荷がかかる。それでいて、肉体的にもとにかく運動量を要するというのが多くのアングラ芝居の特徴だが、安田章大のその圧倒的な熱量とパワー、そして身体のキレのまあ見事なこと! それでいて、舞台上の彼から感じられるのはけしてキラキラとした“アイドル”の空気ではなく、往年のアングラ芝居のスターたちがまとっていた、きらめきとどこか“禍々しさ”のような空気、これを兼ね備えているのだ。これは彼のファンはもちろんだが、長年唐十郎作品や新宿梁山泊、アングラ芝居を観続けてきたファンの方が嬉しくなってしまうのではないだろうか? おそらくそれは、彼が本当に唐作品を愛しているからこそ作り出せている空気なのだろう。

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