この舞台がいかに“特別”か、キャストや音楽の魅力と共に解説
命を削るかのような稲垣吾郎の熱演が心打つ、4年ぶりの再演『No.9 ー不滅の旋律ー』開幕
2024.12.25 20:30
2024.12.25 20:30
稲垣吾郎主演の舞台『No.9 ー不滅の旋律ー』が2024年12月22日、東京国際フォーラムCで開幕。それに先駆け、前日の21日に公開舞台稽古が行われた。今回で2015年、2018年、2020年に続く4度目の上演となる。
1800年、刻々と変化する政治情勢の影響を受けつつも、「音楽の都」として栄えるオーストリア、ウィーン。ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(稲垣吾郎)は、豊かな音楽の才能に恵まれながらも、複雑で偏屈な性格のため、行く先々で騒ぎを起こしていた。さらに以前から不調だった聴覚の障害が深刻さを増し、身体のうちに溢れる音楽と不幸な現実の間で、その心は荒んでいる。
だが、彼の才能を深く理解するピアノ職人のナネッテ(南沢奈央)とヨハン(岡田義徳)のシュトライヒャー夫妻、ナネッテの妹で後にベートーヴェンの秘書となるマリア(剛力彩芽)、二人の弟ニコラウス(中尾暢樹)とカスパール(崎山つばさ)らとの交流が、徐々に彼の内面を変えていく。病に身をすり減らしながら頭の中に鳴り響く音楽をひたすら楽譜に書き留めるベートーヴェン。全身全霊をかけて取り組んだ「交響曲第9番」が初演を迎えたその時、彼の心の内に響いたものは?──というストーリー。
誰もが知る大作曲家・ベートーヴェン。「運命」こと『交響曲第5番』や『エリーゼのために』、また今作のタイトルともなっている「No.9」……『交響曲第9番』など、誰もが一度は彼の作品を耳にしたことがあるはずだ。美しく、力強く、ドラマティック。そんな名曲の数々を生み出して来た彼の生涯は、曲に負けず劣らず波乱に満ちていた事でも知られている。気性が激しい人物、途中で聴力を失うという音楽家として致命的な出来事が起きながらも、名曲を生み出した“偉人”……音楽の教科書で知った彼のイメージは、だいたいそんなものだろう。
しかし舞台になり、稲垣吾郎という肉体を得てベートーヴェンという人物が目の前に現れると、知識としてしか持っていなかった物語が、歴史上の人物が、出来事が、突然生々しいものとして私たち観客に迫ってくる。舞台冒頭のベートーヴェンは、演奏家・作曲家として名声を掴みかけているものの、まだ成功とはいい切れず、そして既に耳の不調に悩まされながら、それをひた隠しにしている状況だ。
しかし始まってすぐに観客は、この音楽の天才がいかにあらゆる意味で“大変な人物か”ということをすぐに理解する。シュトライヒャー夫妻のピアノ工房を訪れると、並んでいるピアノに対し歯に衣着せぬ評価を浴びせる。コーヒーに使う豆が1杯あたり60粒でなく59粒だったことに腹を立て、メイドをクビにする。感情の起伏が激しく、偏屈で、はっきり言って「近くにはいて欲しくない」タイプだと誰もが思うだろう。しかし同時に、彼の音楽を一度でも聴いた人は圧倒的なほどにこのことも実感させれらるのだ……彼は、“天才”であると。
何度も何度も感情を爆発させ、ときに肉体全体を使って大暴れするようなベートーヴェンという人物を、稲垣吾郎はまさに魂を削るかのごとく演じていく。上演時間約3時間、舞台の上にほぼ立ち続けるこの役を演じるのは並大抵のことではない。舞台出演も多い稲垣吾郎だが、この『No.9』は自ら「ライフワーク」と公言している作品。彼にとってこの作品がいかに“特別”かは、舞台を一度でも観れば心の底から納得できるはずだ。それほどまでにこの作品に渦巻くパワーは凄まじい。
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