2023.06.10 08:00
©「渇水」製作委員会
2023.06.10 08:00
全国公開中の生田斗真主演映画『渇水』から場面写真が公開された。
原作は1990年に第70回文學界新人賞受賞、第103回芥川賞候補となり注目を浴びた河林満による同名小説。生の哀しみを鮮烈に描いた名篇が、『孤狼の血』シリーズ(2018年、2021年)などで知られる白石和彌監督初のプロデュースにより刊行から30年の時を経て映画化された。
本作で監督を務めるのは髙橋正弥。水道料金を滞納する家庭の水を日々停めて回る業務に就く水道局員の主人公・岩切俊作を生田が演じ、心の渇きにもがきながらも“生の希望”を取り戻していく役どころを体現した。さらに門脇麦、磯村勇斗、尾野真千子ら実力派俳優が脇を固める。
解禁された場面写真は、生田演じる主人公・岩切の“渇いた目”の表情にフォーカスしたもの。虚で伏しがちな目の表情と、そしてそこから徐々に物語の終盤にかけて潤いを戻していく様子が切り取られており、岩切が物語の中で変わっていく様子を捉えている。公開後SNSでは「生田斗真の目の演技がすごい」「すべてを諦めたような表情に引き込まれる」など、役者陣の演技力に注目が高まっている。
先日行われた初日舞台挨拶でも、髙橋監督が「目の力にすごい射貫かれて、岩切は生田さんに演じてほしいって思っていました。最後の爆発する芝居の時に一番いい目をしてくれましたし、この映画の冒頭から段々目が死んだように疲れていく様を表現してくれて感銘を受けて、生田さんで良かったなという思いです」と、かねてから注目していた生田の目の演技が今作でも存分に発揮されていることを絶賛。さらに、各界の著名人よりオピニオンコメントも到着した。
岡田寛司(映画.com編集部)
世の中に「面白い映画」は数あれど「忘れられない映画」はそうそうない。あの表情、あの視線、あの言葉──簡単に忘れられるわけがないでしょ、あんなものを見てしまったら。諦めの境地にいた平平凡凡の男が無様に抗う。そこにアガる。ヒーロ映画ばりにアガる。今では「忘れたくない映画」になっています。
オカモトコウキ OKAMOTO’S(ミュージシャン)
誰もが自分の生活に必死だ。そして誰もが孤独に耐え続けている。
自分のことに必死なだけの僕らは、どこまでそれを想像できるか、どこまで関わるか。少しのことで結末が大きく変わるかもしれないのだ。誰もが自分の人生に重ね合わせるであろう一作。
橋本淳司(水ジャーナリスト、武蔵野大学客員教授)
自然界を流れる水は無料だが、蛇口から流れる水は有料。水はあらゆる生命の命を支えるが、料金を支払わなければ水道は人の手により止められる。その作業は一瞬だが、止められるのも、止めるのも地獄。
笠井信輔(アナウンサー)
人として生きるのか?水道局員として生きるのか?水道局にこんなドラマがあったとは……。生田斗真の虚ろな目つきが停水作業の深い葛藤を見事に体現。そして、幼い姉妹の水に寄せる深い思いと無垢な姿が脳裏から離れない。これはコロナ後に誕生した令和時代の「誰も知らない」なのだ。
下村麻美(シネマトゥデイ編集⻑)
「渇水」という文字の持つ意味が、映像、人物の表情、ストーリー、すべてから痛いほど伝わってくる。テーマがここまで明確に表現されて100分に凝縮されているからこそ映画として傑作といえる。生田斗真と山﨑七海の物言わずともその佇まいから、真摯に人生と向き合っている人たちの、どうにもならない哀しさがものすごいエネルギーで表現されている。
SYO(物書き)
作り手の渇望と、時代の飢渇がここまで符合した作品も珍しい。
作品観賞の域を超え、現の事象や人物として目撃してしまった。
武田砂鉄(ライター)
人間は、ある人にはとても冷たくて、ある人にはとても優しい。
それを自覚している。それをできるだけ自覚しないように生きている。
誰もが抱えている矛盾を突きつけてくる。
松尾潔(音楽プロデューサー)
ヒートアップした社会では水も人間も蒸発する。お釈迦様の視界からも外れた、蜘蛛の糸さえ届かない場所がある。ならば、気づいた人間から動くしかない。動く者のところに糸は垂れてくる、雨も降ってくると信じて。渇いてからでは遅い。
森直人(映画評論家)
「生ける水」を止めるのも、与えるのも我々次第。お前の敵はお前だ──この映画が突きつける自問自答。それは絶望や諦めに陥ることを拒絶する飽くなき人間信頼に基づくものだろう。「仕方ない」なんてことは何もない。『渇水』は今年の日本映画を豊かに潤してくれる。
門間雄介(ライター/編集者)
日常のちょっとした違和から、不幸な現実を、思うに任せない生を浮かび上がらせる──猛暑のぎらつく光の中に。こんなふうに鮮烈な日本映画の登場を待っていた。
山崎聡一郎(「こども六法」著者・ミュージカル俳優)
原作の刊行から30年というが、今なお、あらゆる登場人物たちがリアリティを持ち続けていることこそ、私たちが向き合わなければならない課題であろう。身の回りで必ず起きている様々な渇きに対して、私には何ができるだろうかと、改めて思案した。
山下茜(CUT編集部)
ずっと喉が渇く映画だった。正しい(はずの)行いが確実に誰かを追い詰めていく、閉塞感と自己嫌悪。淡々と日々をこなしながら虚ろになっていく、そんな生田斗真の表情に脱帽した。
吉川ばんび(作家)
置き去りの子ども、容赦のない給水停止、狭間の大人達。水面のようにゆらめく心情描写と彼らの悲願に、心を打たれる。