ヒップホップで社会を生き抜く! 第8回
30代後半でグラミーに初ノミネート、フレディ・ギブスの軌跡から見る“遅咲き”のメリット
2022.10.30 18:00
Photo: Pat Martin
2022.10.30 18:00
第63回グラミー賞で、凄腕プロデューサー・アルケミストとのコラボアルバム『Alfredo』がベストラップアルバムにノミネートされたインディアナ出身のラッパー、フレディ・ギブス。2014年にマッドリブとリリースしたコラボアルバム『Piñata』、そして2019年にリリースした『Bandana』が非常に高い評価を受け、今ではヒップホップ界に欠かせないラッパーとなった彼であるが、2022年の9月30日にニュー・アルバム『$oul $old $eparately』をリリースした。
リアルでハードなストリートラップと、低く特徴的な声で多くのラップファンに愛されているフレディ・ギブスであるが、彼はいわゆる「遅咲き」のラッパーである。若くから注目されるラッパーも多いなか、彼は10年以上アンダーグラウンドでインディペンデントな活動を続けた結果、30代後半で「咲いた」と言える。
アメリカンフットボールの奨学生として大学に通っていたが、退学になったフレディ・ギブスのラップキャリアは2004年に始まった。彼は活動1年目にミックステープ『Full Metal Jackit』をリリースし、ラップを開始してからわずか2年でメジャーレーベル〈インタースコープ・レコード〉と契約。しかし2006年に、デビューアルバムの制作中にレーベルとの契約を切られ、アルバムはお蔵入りになった。その後さまざまなメジャーレーベルとミーティングをしたが、全レーベルから拒否されたと明かしている。
レーベルから降ろされ、契約金も使い果たした彼は、さまざまな都市でドラッグディーラーとして生活をするようになる。そんななか、彼に寄り添ったのがフレディ・ギブスを〈インタースコープ〉に紹介したインターンLamboであった。当初は、インターン生の課題としてフレディ・ギブスを発掘し、レーベルに紹介したLamboであるが、彼も〈インタースコープ〉への就職が叶わず、困っていたのだ。〈インタースコープ〉からの支援がなくなった同士、Lamboはフレディ・ギブスのマネージャーを務めるようになり、二人三脚で活動するようになる。
その後、フレディ・ギブスはインディペンデントで複数のミックステープをリリースし、2011年にはアトランタのスーパースターであり、トラップの第一人者であったジーズィーのレーベル〈CTE〉と契約。しかし2012年にはレーベルから脱退し、フレディ・ギブスは再度インディペンデントに戻った。
ラップキャリアのほとんどの期間をインディペンデントに活動していた彼らは、地道にコラボやミックステープで名前を売っていったが、そのなかでも大きな要素となったのはツアーであると、マネージャーのLamboは語っている。彼らは10年もの間、ブッキングされたら、世界中のどこでもライブをという気概で活動していたようだ。マッドリブとの『Piñata』や、数々のミックステープと連動したツアーをロシア、イスラエル、カナダ、中国、ヨーロッパなどの国々で長年実施していた。そのため、世界各地でツアーを繰り返すことにより、地域に密着したロイヤリティの高いファンを作ることができたとLamboはDJBoothのインタビューにて語っていた。
インディペンデントに活動し、アルバム『Shadow of a Doubt』『You Only Live 2wice』『Freddie』をリリースしたフレディ・ギブスは数々の音楽メディアから高評価を得て、作品を出すたびにファンベースを増やしていった。メジャーレーベルから拒否されていたフレディ・ギブスであるが、ある日彼はメジャーレーベルから声がかかり、ミーティングに誘われたという。Lamboは、今まで拒否をしていたメジャーレーベルに呼び出されたときのことをこのように語っている。
「前にメジャーレーベルに呼ばれて、彼らが何かしらのオファーを提案してくれるんだと思ってたんだ。レーベルの偉い人たち15人ぐらいが座った会議室に案内された。ミーティングがはじまったら、“どうやってツアーをしているか、どのようにしてグッズを売っているか、どのようにしてライブを完売しているかなど、ノウハウを教えてほしい”という旨だった。俺らがどうやってその状況を長続きさせているかを教えてくれと言われた。彼らは驚いていた。
彼らは、業界や有名アーティストと繋がってないアーティストを下に見る。実際に実績ができた後じゃないと彼らは理解しようとしない。例えば新しいクレヨンの色を開発したくて、クレヨンメーカーに行くとする。新しい色を作るには、既存の色を混ぜたりもしながら、試行錯誤する必要があるが、彼らはそれを理解していない。だからずっと緑や黄色など、既存の色を同じように作り続けているようなものなんだ」
以前フレディ・ギブスのことを拒否したメジャーレーベルが、彼に活動の方法を教えてほしいと頼んできたと、Lamboは明かしている。以前はフレディの才能を信じていなかった人たちが、契約オファーをするのではなく、逆に参考にしようと連絡をしてきたと考えると、彼のインディペンデントでの活動は正しかったのだろう。
フレディ・ギブスは2019年に〈RCA〉、そして2020年に〈ワーナー・ブラザーズ〉と契約し、最新アルバム『$oul $old $eparately』を2022年にリリースした。以前インディペンデントラッパーとして巨大なファンベースを獲得したラッパー・ラスが「インディペンデントに成功することにより、メジャーと契約するときに有利な契約を結ぶことができる」と言っていたように、長年インディペンデントに活動し、成功していたフレディ・ギブスも有利な契約を結ぶことができたと予想ができる。インディペンデントに成功しつつ、メジャーに移籍した彼を批判しているリスナーに対して、彼は以下のように語っている。
「そういうこと言う奴らはクソくらえ。俺には子供もいる。外から見てると、どうやってビジネスを運営をするかって口では言うことができるけど、実際には何もわかっていない。もし誰もがわかっているなら、お前だってやってるはずだ。俺らは自分にとって何が一番いいかわかっている。このために何年も待ち、努力してきた。最高のレベルで、競争をする機会だ。小さくインディペンデントに活動してる奴らとは、もう勝負にならないほど俺は最高だ。俺はトップ層のラッパーたちとやり合いたい。俺が実際にトップラッパーだからな」
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