2022.10.22 12:00
「部屋は心を表しているので掃除をしよう」
YouTubeのおすすめに出てきたよく知らない人の動画の音声だけ聞きながら一応気休めの掃除をゆっくり進めている。
最近部屋が汚い。これは心の中なのか。
仕事から帰ってきてとりあえず寝てしまう。
そんで起きてから仕事して、そんで寝て
起きてからまた仕事をしている。
部屋が綺麗な人は心が綺麗なんだろうか。
そうなると私は年中心がどうかしている。
会社の重要書類だけは1つのコーナーにまとめているので死守できているのだがそこを荒らす獣と同居しているので扉の閉まる部分に移動させるべく扉の中を掃除しているんだが訳のわからない記憶から抹消されている謎のガラクタがあれやこれや出てくる。
片方の靴下は捨てるべきなのか。
最後の最後でもう一つ見つかるんじゃなかろうか。
じゃあ取っておこう。とか思ってるとどんどん捨てないもので溢れかえる。
これは必要なものなのか。随分昔に奥に仕舞われていた靴下は掃除のために出していなければ今後何十年も見ないものだったのではないか。
しかし今助け出したのであれば必要というカテゴリに移動すべきなのか。どうだ。どうなんだ。
さて。
コロナになってから「小春って、料理できないもんね」と過去の奴に言われたことがこびり付いて剥がれないもんだから料理をしていた時期があったがまあ出来ないわけではないということだけ立証できた瞬間もう料理をする気力がなくなった。
これを習慣化できている人を尊敬する。
もはや今冷蔵庫にはヨーグルトしか無い。
食べれる時に野菜だけは食べておくことにしている。
最近サラダのようなものを出す店でサラダを注文するようになった。
その店では名前を聞かれる。
人が少なくても名前を聞かれる。
待っている人が多くて名前を書いて待機するなら分かるんだがそういうやつじゃなくて、とにかくどんなに空いていても名前を聞かれるのだ。
「松永」という名前を答えりゃ良かったんだがその時何を咄嗟に思ったのか、「小春」ってのもあれだから「ハル」にするか。と若干の偽名を名乗ってしまった。
偽名というのはなんとも罪悪感がある。
向こうは私の名前を「ハル」と思っている。
本当は小春なのに。
以前マッチングアプリでもやってみなよみたいな話になったことがあって、とりあえずな名前で登録した時も「ハル」にしていた。
空の写真しか載せていないのに次々とマッチングすることに恐怖を覚えて誰とも進展せずにそのアプリは秒で削除されたんだがあの時に使っていた「ハル」を謎に復活させてしまった。
「ハル?さん?ハルさんですか?」
マッチングアプリの偽名を何度も確認してくる。
なんだよ、もはや名前はなんでもいいよ。
聞こえたやつにしてくれ。こっちのせいなんだけど偽名だし特にその名前にこだわりもないから早く注文を奥に回してくれ。
「ハルさんの注文入りましたぁ、エスニックカレーサラダァ」
多分入りたての定員さんだったんだろうと思う。
「ハルさんてのは言わなくていいのよ。」
おそらく先輩のバイトリーダーみたいな人から注意されていた。
言わなくていいんなら聞かなくてもいいんじゃないか。名前。
「テイクアウトですか?あっ持ち帰りですか?」
多分だけど両方同じ意味だぞ。
「さっきイートインって言ってましたよね、ほら、打ち込んで」
バイトリーダーが仕切っている。
とりあえず私のサラダが注文通っているのかどうかが気になる。
席に座る。私しか客がいない中
「これができたら『ハルさん〜』て呼ぶのね、そんで
『ハルさん』に渡す、わかった?」
と何度もマッチングアプリの偽名をキッチンで話している。
こんなに呼ばれる名前だと思っていなかったので罪悪感は増える一方だしまだサラダは出来上がらない。
ようやく出来上がったサラダを持って、
先ほど練習していた「ハルさん〜」を不安そうに発している。
もしもマッチングアプリで駅前の待ち合わせをしたらこんな感じなんだろうか。マッチングしたはずなのに不安そうな相手。
そんなに不安なら呼ばなくていい。何せ私の名前はハルではないんだから。
プロフィール欄に書いていたものも全部嘘だ。
美術館巡りなんてしていない。
そんな「もしも」はさておき一時的にハルと名乗っていた私は、注文していたカレー味のサラダを、歯医者の2時間の治療後に行ったタイミングで麻酔中だったのでオランウータンみたいな食べ方しかできない。
新人のバイトくんと、バイトリーダーと、オランウータンのハルしかこの店には居ないのだ。