関根勤のマニアック映画でモヤモヤをぶっ飛ばせ! 第4回
千葉真一から聞いた面白エピソードと共に振り返る『激突!殺人拳』
2022.08.26 12:00
2022.08.26 12:00
関根勤が偏愛するマニアックな映画な語る連載「関根勤のマニアック映画でモヤモヤをぶっ飛ばせ!」。第4回目は1974年に公開された映画『激突!殺人拳』。
千葉真一演じる剣琢磨は、金を貰えば何でもやる男。非合法なビジネスを生業とする中である日、殺人犯・志堅原楯城の脱獄を請け負うことに。しかし、脱獄させたものの依頼主である志堅原の弟と妹が依頼金を払えないと知ると怒り、弟は乱闘の末に死亡、妹は剣によって裏社会に売り飛ばされ、香港のマフィアのもとで薬漬けになるという悪極非道っぷり。そんな剣に、マフィアが狙う石油社長令嬢の誘拐計画、志堅原楯城の恨みなどあらゆる思惑が絡んでくるアクション映画。
千葉が海外で「サニー千葉」の異名を獲得したきっかけでもある本作を、本人から聞いた思い出話を含めて振り返ってもらった。
第4回『激突!殺人拳』
千葉真一さんは『ボディーガード牙』とか『キイハンター』シリーズとか空手モノをやっていたんですよ。そんな時に1973年にブルース・リーの『燃えよドラゴン』が大ヒットしたことを受けて、東映の岡田茂さんが「これは千葉真一でできるぞ」となって、すぐ彼にオファーして作られたのが『激突!殺人拳』です。これがアメリカで大ヒットして、シリーズ三部作となりました。それで“サニー千葉”が生まれ、若き日のクエンティン・タランティーノやサミュエル・L・ジャクソンがそれを観てファンになった。スティーヴン・セガールやキアヌ・リーブスも大好きですからね、千葉さんのこと。そんなふうに、彼が世界に飛び出すきっかけになったのが本作とも言えます。
岡田さんによるとブルース・リーは千葉真一さんのファンで、共演したがっていたみたい。でもそれを話した2ヵ月後に亡くなっちゃった。だから、もしかしたら二人が激突するシーンが見られていたのかもしれない。ジャッキー・チェンももちろん、千葉さんのこと大好きですからね。そういう同じアクション俳優から愛され、尊敬された存在でした。
千葉さんは東映のドラマ『新・七色仮面』でデビューし、『アラーの使者』、それから『キイハンター』などで名を馳せていました。当時、彼のブロマイドが人気ナンバーワンだったんですよ。2位がオックスとかザ・テンプターズとか、グループサウンズがすごかったのにアクション俳優がそれを抑えていた。今じゃまず考えられないですよね。
僕は千葉さんのことが元々好きでその前の『ボディーガード牙』も観ていたし、出演映画も全て観ていた。だから『激突!殺人拳』も楽しみにして映画館に足を運んでみたら、すごい迫力の作品でしたね。
千葉さんってそれまで青春スターみたいなところもあり、『キイハンター』ではコメディチックな役を演じていて、ようするに“いい役”をやってきた俳優なんです。爽やかな青年で、ちょっとコメディタッチで、悪いやつを倒していていくという役柄をずっと演じてきた。そして1973年に東映が実録ヤクザ路線にいって『仁義なき戦い』を公開すると、それがめっちゃ受けた。深作欣二さんの揺れるカメラワークが良くてね。そして第2作目『仁義なき戦い 広島死闘篇』は前作のスピンオフになりますが、その時に千葉さんもやはり翻弄される青年の役を演じることになり、台本を覚えて全部役作りをしていたんですって。そしたらこの『仁義なき戦い』シリーズで最も下品な大友勝利という役に決まっていた北大路欣也さんが台本を読んで「こんな下品なこと俺は言えない」、「千葉さんの役と変えてくれ」と言った。撮影の二週間前くらいのことですよ。「冗談じゃないよ、俺あんな役やるのかよ〜」って言われて千葉さんも「ええっ」って戸惑ったけど、深作さんが「千葉、やってみろ」って背中を押した。
北大路さんはね、市川右太衛門さん、つまり東映の重役の息子だから深作監督も文句言えないんですよ。ところが、これが逆に千葉さんにとって功を奏した。千葉さんは深作監督とデビュー作品が一緒だったこともあり、彼に色々教えてもらいながら守られてずっときていたので、彼には絶対の信頼を寄せて師匠として尊敬していた。だから、深作さんから「やってみろ」と言われた時に、「師匠に、『腕試しでお前どこまでやれるかやってみろ』って言われているような気がした」と言って承諾したと言っていました。
そして改めて役作りをし、木刀を持ってサングラスにジャンパー姿で暴れまくるわけですよ。彼、暴れるにしても肉体が鍛え挙げられているから迫力が桁違いにすごい。日本体育大学の体操部でオリンピック目指したものの怪我をして映画の世界に入ってきた人ですから。そしてアクションをずっとやってきたこともあり、彼の木刀の一振りも物凄いスピードなんですよ。テーブルにあるものを一瞬で全部吹っ飛ばして。初めての悪役、しかも相当に悪い役。とんでもない、手のつけようのない悪。そしたらその役が大当たりになった。それを経ての、1974年『激突!殺人拳』なんです。
『激突!殺人拳』なの剣琢磨って、僕のイメージではいい役だと思っていたんですよ。しかし、もう一度観返してみたら、なかなかに悪いやつなんですよね(笑)。大友勝利より悪いんじゃないかってくらい。金のために何でもやる裏の人間で、処理人です。ある女性を救うことを頼まれて、実際そうするから正しい行動はしている。しかし、彼はそれを正しい行いだからではなく、金のためにやっているんです。『戦国自衛隊』とか『柳生一族の陰謀』では千葉さんの背筋はピンとしているのに、剣は悪者だから猫背だとか、細かい役づくりも堪能できる。劇中、トレーニングをしているところにやってきた敵を、空手の息吹をしながらコテンパンにするシーンがありますが、あれで僕、千葉さんの息吹のモノマネをやっていたんですよ。そのモノマネがオーバーだとか言われていましたが、本家を見たら僕なんか7割くらいしか出せていない。体を鍛えているから迫力が違うわけです。
剣が中国マフィアに売り飛ばした志堅原兄弟の妹の奈智を演じる塩見悦子さん(志穂美悦子)も、千葉さんが育てたアクション女優さんです。彼女もこの映画をきっかけに映画『女必殺拳』シリーズの主演に抜擢されて活躍していましたね。あと、志堅原楯城役の石橋雅史さん。あの人は極真空手七段で綺麗な受身をする。この映画のいいところは、本当の実践空手をやっているのが見られるところでもありますね。あと盲目の剣士、盲狼公も結構お気に入りのキャラクターです。演じた天津敏さんは僕が小さい時に観た『隠密剣士』で風魔小太郎兼良という悪役を演じていたんです。その時から彼が好きでした。あとね、キックボクシングの風間健も出ている。だから本作は、本当に強い人が集まっている映画なんですよ。
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