2022.08.11 12:00
2022.08.11 12:00
「免許取ろうと思う。」姉に言った。
事務所をやめて独立してからもうすぐ一年が経とうとしている。
アコーディオンを一晩で500台以上売ったり、アコーディオンを約300台コツコツと検品したり、アコーディオンを日常的にいろんなところへ運んだり。兎に角アコーディオンを運んだ。
ライブ以外にも新しいことに挑戦した一年だった。ライブにまつわるあれこれも、いつの時でも結局何かと荷物はたくさんあった。そうでなくとも、アコーディオンは重かった。
今まで29年間、車を運転したいと思ったことなど一度もなかった。できる人がやればいいランキング、常に上位だった。
それがどうしたものか、独立した途端に、「取るべきだ」と心がそう思ったのである。今まで無縁だった、自動車の運転というもの自体に、物凄い興味と使命感が湧いてきて、免許を取らないままでいる選択肢すらもう無いように感じた。
人は不思議なものである。好き嫌いの多かった幼少期を過ごしたはずの私も、いつの間にか嫌いな食べ物はひとつも無くなっていた。誰かに食えと言われた訳ではない。自主的に頑張ったわけでもない。昨日まで嫌いと言っていたはずのものを、嫌いだったはずのそれを、ただ、いつの間にか食べているそんな日が来た。そうして嫌いなものは手をつけないままのものは無くなっていった。へえ。こんなふうに食わず嫌いなもの、手をつけていなかったもの、少しずつ一つずつ、無くなっていくんだ。これが大人というものなのかな。へえ。いいもんだな。そんなこんなで、免許にまで、取ろうという気持ちにまで、なった今がある。自分が変化したのではない。時が来たのである。そうだ。免許が私に「取れ」と言っている。そんなわけで申し込んだ。
まず、仮免学科試験。なんだこれは。国語の試験かな。
――赤信号は『止まれ』という意味である。マルかバツか。――
答えなんて当然、どう考えてもマルでしょう。マルだろ。マルじゃない訳がない。マルだと言ってくれ。
【答え】バツ。「赤信号の基本的な意味は、停止位置を超えて『進んではいけない』です。
は。へ。ほ。
こんな問題が山ほど出る。なんだこれは。世の免許を取得している人間みんなみんなこの試験を合格していることを知った。大尊敬が止まらない。こんな試験、合格できると思えない。しかし諦めない。問題を考えた方は、イジワルさんなのか。なんなのか。そんなこと言っている暇に考えている間に勉強したら良いと思う。そうして私は勉強した。人生で一番勉強したんじゃないかくらい集中して。
仮免学科試験。警察官の人の凄い速さの説明を聞き逃すまいと耳の先まで集中して。今「マークシートに記入してください」そう言った。そう言ったね。そうしてマークシートに記入した。緊張で、変な顔をしながら試験を受けていたと思うし、合格発表の瞬間も変な顔していたと思う。でもこんな時はマスクが役立つ瞬間だなと思った。集中したり、怒られたりすると、半笑いになる悪い癖も、マスクのおかげで隠し切れたと思う。あぶなかった。
合格。半笑いになりながらマークシートに記入して、合格した。本免許の学科試験もあると思うと緊張で今から半笑いになってしまいそうだが先の不安は後回しにしようと思う。
「免許を取ろうと思う。」
とりあえず次は、仮免技能試験。
免許を取得するまでどのくらいかかるのだろうか。どんなドラマが繰り広げられて、あと何回半笑いになればいいのだろう。どうか頭の片隅でひっそりと、応援していてほしい。
P.S. 人生で初めてハンドルを握ったその日の写真。動画はポ号に載せようと思う。人生初運転。見なくてもいいです。