黒羽麻璃央、蓮佛美沙子らと浮き彫りにする現代人の苦悩とは
髙木雄也が全身全霊で体現する“叫び”にあなたは何を思う?舞台『ジン・ロック・ライム』開幕
2026.03.12 20:00
2026.03.12 20:00
アイドル、俳優、ミュージシャン──。表舞台でスポットライトを浴びるあの人々の心の内を、私たちは知らない。その笑顔やポジティブな言動の裏に、じつは何を抱えているのか。華やかな世界に生きる孤独な「スター」の本当の心の内を、私たちは誰も知らない。
髙木雄也が主演を務める舞台『ジン・ロック・ライム』が、3月10日より開幕。“近代演劇の父”とも称されるノルウェーの劇作家、ヘンリック・イプセンの代表作のひとつである『ヘッダ・ガブラー』を下敷きに、現代人の心の暗部に光を当てる。人気ロックミュージシャン・ジン(髙木)の心の叫びと、これに呼応する人々の姿を描いた作品だ。
2024年に上演された『東京輪舞』に続き、劇作家の山本卓卓と髙木が再タッグ。現代社会に生きる人々の物語が、再びパルコ劇場のステージに立ち上がることとなった。『シッダールタ』の上演も記憶に新しい白井晃が演出を手がけ、サニーデイ・サービスの曽我部恵一が音楽を担当。座長の髙木を囲むのは、黒羽麻璃央、蓮佛美沙子、永田崇人、駒木根隆介、小日向星一、銀粉蝶といった頼もしい演技者たちだ。ここでは、開幕日の前日に行われたゲネプロの様子をお届けする。

白井晃(演出)、黒羽麻璃央、髙木雄也、蓮佛美沙子、山本卓卓(作)
セリフだけに頼らない髙木雄也の表現力
煌々とした輝きを放つライトを背に、ジンが歌唱するところから本作ははじまる。もちろん、生歌である。ときおり恍惚とした表情をのぞかせ、力強い歌声は太く鋭く客席に届いてくる。ジンの熱唱する姿を前に、たちまち観客は彼が「スター」であることを理解するだろう。これがほんの数分のうちに実現しているのは、「Hey! Say! JUMP」のメンバーとしてステージに立ち続けてきた髙木だからこそだと思う。

やがてジンのこのパフォーマンスは激しさを増し、それまでの歌唱とは異なるベクトルを持って、私たちオーディエンスに迫ってくる。そしてふいに怒りの感情をのぞかせ、声を荒げるのだ。みんな自分のことを消費しているのだと。
劇作を担当した山本は、開演前の会見で「スターは目に見えている。テレビなどに露出しているのを、たしかに目にしている。でも、その人の心の中は見えない」と述べていた。この“本当は見えていない”という問題をこの作品はテーマとして据えており、ステージ上ではジンのスターとしての一面と素顔とが、大きくズレていく。山本が口にしていたテーマが鮮やかに立ち上がると、ここから観客はジンたちとともに、このテーマに向き合っていくこととなるのだ。
ライブ中のジンの言動はネットを賑わせ、批判される。炎上状態で、ミームにすらなっているらしい。ジンが所属する事務所の社長にして彼の妻でもあるショウコ(蓮佛)でさえも、身近な「スター」の言動の真意は分からない。主に物語が展開するのは、窓からライムの木が見えるこの事務所だ。


新たなスターとなったミュージシャンのエート(黒羽)、人気タレントのホムラ(永田)、ライターのコマ(駒木根)、新人マネージャーのトゴシ(小日向)、先代の社長夫人であるアキコ(銀粉蝶)といった人々が出入りするこの場所で、それぞれの思惑が交錯し、いくつものドラマが交差していく。
髙木が演じるジンは終始テンションが高く、いつもおちゃらけている。彼は心根が優しく、繊細な性格の持ち主だ。時折見え隠れする弱さを隠すため、おちゃらけているように思える。その手足も声も表情も、髙木の表現は柔軟性に富んでいて、常に揺れている。セリフだけに頼ることなく、ジンの不安定さを体現しているのだ。

これと対照的なのが、妻のショウコと人気ミュージシャンのエート。演じる蓮佛も黒羽も身体の軸が真っ直ぐで、発する声にも芯がある。とくに黒羽と髙木の演技は、強い対照性を持っている。髙木の表現から感じるのがジンの不安定や危うさだとすれば、黒羽の表現から感じるのはエートの中にみなぎる自信。とはいえ、この印象がすべてではないことは、作品世界に触れていくうちに分かってくる。
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